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S5-20 油汚染の現場管理に用いる簡易分析装置の検証

第14回地下水土壌汚染とその防止に関する研究集会(2008年)

○佐藤秀之1・松浦健一2、横山圭一2
1㈱インターナショナル・サーボ・データー環境機器部・2DOWAエコシステム㈱ジオテック事業部

1.はじめに

土壌汚染対策における各種分析に関して、公定法にのみ頼った調査・対策では費用が一般的に高額となり、また結果が出るまでに数日から数週間を要するのが一般的である。対象が油の場合、一般的な分析方法として、重量法、赤外線吸収法(IR)、GC-FID法、GC-PID法、GC-MS法があげられるが、現場で迅速に分析を行う方法は限られる。簡易分析器として適切な装置があれば原位置浄化の経過確認や、浄化範囲の特定を行う際に有効的に用いることが可能である。現在、現場で使用することのできる分析装置として、国内でいくつか有用なものが存在するが、用途が土壌や地下水に限定されるなどそれぞれ長所と短所がある。
また、油汚染対策ガイドラインでは、油臭・油膜の評価に加えてTPH(全石油系炭化水素)データを補足して汚染の程度を判断するようにしている。迅速にTPH分析が実施できれば、「油臭・油膜」という数値化が難しい評価結果に何らかの判断基準を設定できると考えられる。
そこで、土壌および地下水を対象とし、またTPHの定量を行うことの出来る装置として、米国において広く用いられている紫外線蛍光分析装置の検証を行い、現場における油類の濃度の簡易分析法としての有効性を確認した。

2.適用機器と構造1)

検証には米国製の紫外線蛍光分析装置(SiteLAB社製UVF-3100A)を用いた。蛍光とは、特定波長の光(励起光)を吸収した分子・イオンが、それにより励起された状態(励起状態)から元の状態(基底状態)に戻る際に長波長の光(蛍光)としてエネルギーを放出する過程をいう。本装置は芳香族炭化水素化合物に紫外線を照射すると蛍光を発する性質を利用したもので、低濃度域では蛍光物質の濃度と蛍光強度は比例する。UVF-3100Aは紫外線光源、励起フィルタ、ガラスセル、蛍光フィルタ、光電子増倍管(検出器)からなる。

  • (1)紫外線光源
    λ=254nmの水銀ランプを使用。

  • (2)励起フィルタ
    蛍光物質の励起に必要な波長の光を水銀ランプから抽出するための光素子で、特定の波長のみを透過し、それ以外の光は通さない性質を持つ。UVF-3100Aは検体を入れるスロットの方向を変えることによって、対象物質にあわせて簡便に4つの励起フィルタを選択できる構造になっている。

  • (3)ガラスセル
    通常のガラスセルは紫外部に吸収性を持つため、石英ガラスセルを使用している。ガラスセルに検体を入れて測定を行う。

  • (4)蛍光フィルタ
    試料から発せられた蛍光とその他の不要な散乱光などを分離する光学素子。これにより長波長の蛍光を透過し、その他の励起の漏れ光(試料や光学系からの散乱光)などは通さない働きをする。

  • (5)光電子増倍管(検出器)
    光電効果を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電管を基本に、電子増倍(電流増幅)機能を付加した高感度光検出器。

3. 機器の特性

本装置はGRO(ガソリン成分相当)、DRO(EDRO:軽油成分相当)、TPH-Oil(総石油系炭化水素類相当)、PAH(多環芳香族炭化水類素相当)の4種の校正溶液を用いて校正(キャリブレーション)を行う。ただし、本装置の校正溶液はそれぞれ表-1に示すとおり米国におけるEPA等の手法と相関されているため、日本で一般的に用いられている例えば油汚染対策ガイドライン2)に示された炭素範囲(C6~C12:ガソリンの炭素範囲、C12~C28:軽油の炭素範囲、C28~C44:残油の炭素範囲、C6~C44:TPHの炭素範囲)とは異なる。また個々の校正溶液の名称も米国もしくは各州で一般的に用いられているものを使用しているため日本のものとは異なる点を留意する必要がある。DROはEDRO(Extended Diesel Range Organics:軽油範囲有機物を拡張したもの)でDROよりは広く残油の一部まで補っている。TPH-Oilは経年変化が見られる油、潤滑油、原油等比較的重い油の判別に適しており、日本で一般的に用いられるTPHはGROとDRO(EDRO)を足したものがその炭素範囲から対応するものと言える。さらにその際、紫外線蛍光を用いているため各物質により得られるデータに規則的なバラツキが生じることも考慮に入れる必要がある(表-2)。
校正溶液はそれぞれ既知の濃度の検体が5つあり、0点と合わせて6点で検量線を引いて数値化する。また、それぞれ特定の方向にスロットをセットすることにより、適切な励起フィルタ、光学フィルタを選択することが出来る。校正溶液の種類と蛍光フィルタを通過し測定される波長の関係は表-1のとおりである。

表-1 UVF-3100Aの校正溶液と測定波長

校正溶液の種類炭素数使用スロット測定波長
GRO(+VPH)

ガソリン範囲有機物: Gasoline Range Organics
揮発性石油系炭化水素: Volatile Petroleum Hydrocarbons
/EPA Method 8015-GROと相関

C5 - C9 Slot B 275~285nm
DRO(EDRO)

軽油範囲有機物: Extended Diesel Range Organics
/EPA Method 8015-DROと相関

C10 - C40 Slot A 300~400nm
TPH-Oil

全石油系炭化水素: Total Petroleum Hydrocarbons
/EPA TPH Method 418.1または1664と相関

  Slot A 300~400nm
EPH(Total PAHs)

全多環芳香族炭化水素: Total Polyaromatic Hydrocarbons or Expectable Petroleum Hydrocarbons
/State TPH GC Methods for EPHと相関

C11 - C22 Slot A 300~400nm
Target PAHs

多環芳香族炭化水素: Target Polyaromatic Hydrocarbons
/EPA Method 8270 GC/MS PAHsと相関

  Slot D 400~425nm

表-2 BTEXと多環芳香族炭化水素のサイズや形による発する蛍光の違い

物質名GRO(BTEX)(Slot Bを使用)Total PAHs(SlotAを使用)Target PAHs(SlotDを使用)
ベンゼン:C6H6 3倍低い値 検出しない 検出しない
トルエン:C7H8 1:1同じ値 検出しない 検出しない
エチルベンゼン:C8H10 1:1同じ値 検出しない 検出しない
o-キシレン:C8H10 1.5倍高い値 検出しない 検出しない
p-キシレン:C8H10 2倍高い値 検出しない 検出しない
1,2,4トリメチルベンゼン:C9H12 2倍高い値 検出しない 検出しない
ナフタレン:C10H8 検出しない 3倍低い値 検出しない
フェナントレン:C14H10 検出しない 3倍高い値 7倍低い値
クリセン:C18H12 検出しない 3倍高い値 3倍低い値
ベンゾ[a]アントラセン:C18H12 検出しない 3倍低い値 1:1同じ値
ベンゾ[a]ピレン:C20H12 検出しない 18倍低い値 4倍高い値
ベンゾ[k]フルオランテン:C20H12 検出しない 30倍低い値 9倍高い値
4. 測定方法

抽出はメタノール(HPLC用)を使用する。検体は土壌、地下水ともに分析することが可能である。分析器の校正レンジの範囲内でサンプルを検出させるため、抽出物は所定の濃度まで希釈されたものを用意する。汚染の濃度によるが、始めは100x(100倍希釈)または1000x(1000倍希釈)を用いることを推奨されている。またその際、抽出物そのものをテストすることは出来るだけ避ける。

5. 検証実験

検証実験には、実際の油汚染土壌を用いた。

5.1 実汚染土壌の性状

実際の油汚染土壌(4検体)について油分の評価を実施した。

5.2 試験方法

官能評価と簡易分析(UVF-3100A)、公定分析(n-ヘキサン抽出、CCl4抽出-IR、GC-FID)を実施した。

表-3 臭気強度の指標

校正溶液の種類判定尺度
0 無臭
1 やっと感知できるにおい
2 何のにおいか判る弱いにおい
3 楽に感知できるにおい
4 強いにおい
5 強烈なにおい

(1)官能評価
(1)油膜
土壌試料を約10g分取してシャーレに取り、蒸留水25mlを加えて水面に発生する油膜の有無を目視で観察した。
(2)油臭
土壌試料を約20g分取して、8名のパネラーによる油臭の測定を行った。油臭は6段階臭気強度法(表-3)を用いて評価した。油臭は、評価の最高値と最低値を除いて、残り6名分の平均値で示した。

6. 結果と考察

表-4に実汚染土壌の性状・官能評価結果、表-5に油分の簡易分析および公定分析の結果を示した。

表-4 実汚染土壌の油分評価結果

試料名油種土質油臭(臭気強度)油膜
試料A 切削油 粗砂 なし(0.17) あり
試料B 不明 シルト なし(0.17) なし
試料C 重油 あり(3.8) なし
試料D 燃料油 シルト あり(2.2) なし

油臭・油膜の評価はTPHと比較してあまり相関がない結果となったが、「油臭あり」と評価した土壌について、簡易分析のGROで100mg/kg以上の値となった。また、油臭の臭気強度で最も高い値となったサンプルが簡易分析および公定分析(n-ヘキサンは除く)でも高い値であった。
簡易分析と公定分析の結果を比較すると試料A(切削油)で簡易分析の値が低く出ているが、基本的に簡易分析の方が高い値を示している。比較的良い値を示していると言えるが、現場での簡易分析機器として実際に用いる際には再現性についても確認する必要がある。油種や成分、風化の度合いにより値がどのように変化するか、どのような傾向を示すかを確認する必要があり今後の課題と言える。そのため模擬汚染土壌を用いた実験も多数行い、検体を増やし装置の有効性について更に詳細に検証する必要がある。

表-5 検証試験結果

 簡易分析(UVF-3100A) [mg/kg]公式分析
試料名油種GRODRO(GRO+DRO)TPH OilPAHn-ヘキサン[mg/kg]IR[mg/kg]GC-FID[mg/kg]
試料A切削油 60 37.4 97.4 79.3 9.67 < 200 500 276
試料B不明 0 637 637 1529 141 < 200 85 66
試料C重油 100 3292 3392 6790 871 < 200 2000 2259
試料D燃料油 100 335 435 694 840 < 200 150 36
7. まとめ

油汚染土壌・地下水の浄化にあたり、調査の段階で汚染範囲や程度を明確にする必要がある。ただし、現状の調査では、環境基準項目であるベンゼンのみの調査となっている場合が多く、油臭・油膜を含めた油分の評価を詳細に行っているケースは希であると考える。現在、国内では油に対する基準値が設定されていないので、現場で油分を測定する必要性はないが、土地の売買などで油汚染が浄化対象となることが多い。

油汚染対策ガイドラインでは油臭・油膜といった生活環境の改善を目的としているが、人の感覚をTPHなどの数値で表す際に、試料の採取方法や分析方法によっては過小評価となる要素を含んでいる。特に揮発性成分を含んだ油汚染の場合は、現場での感覚(官能評価)と分析機関での結果で相違が生じる可能性がある。今回用いたような簡易分析装置の評価方法で、油臭・油膜またはTPH分析値との相関が取れる条件が見つけられれば、油汚染の調査および浄化対策の進捗管理に活用できると考える。

今回実験に使用した装置は校正に若干時間を有するが、分析対象を固定(例えばGROのみ)する場合は概ね10検体に3分程の時間で計測を行うことが可能である。現場で使用する際の簡易性についてはクリアしていると言えるが、校正の際の時間の短縮や再現性についての確認を行うことが今後の課題と言える。

【参考文献】

1)

EPA/600/R-01/080, September 2001, Innovative Technology Verification Report, Field Measurement Technologies for Total Petroleum Hydrocarbons in Soil, P.11~15

2)

中央環境審議会土壌農薬部会 土壌汚染技術基準専門委員会, 油汚染対策ガイドライン-鉱油類を含む土壌に起因する油臭・油膜問題への土地所有者等による対応の考え方-,平成18年3月, 資料A-1~4 油臭や油膜の原因が鉱油類か否かの確認方法の概要

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